大人の矯正(成人矯正)
目次
大人の矯正の特徴について

大人の矯正治療は、顎の成長が完了しているため骨の柔軟性が低下しており歯の移動に時間がかかる場合があります。そのため、治療期間が子どもに比べて長くなることがあります。
一方で、成長の影響を受けないため治療計画が安定しやすいという利点もあります。また、年齢が上がるにつれて虫歯や歯周病などの既存の歯科疾患のリスクが多く、治療と並行して口腔内の健康管理が必要になることがあります。
噛み合わせや審美性の改善だけでなく、口腔の健康を長期的に保つためにも効果的です。年齢に関係なく理想的な結果を得るため、検査により適切な治療計画を立てていきます。
こんな方には矯正をお勧めしたい
歯並びや噛み合わせを整えることで健康面や生活の質が向上するため、見た目だけではなく機能面での改善をしたいと考える患者様に矯正治療をおすすめしています。矯正治療により清掃性が改善され、歯の健康を長期的に維持することができます。また、正しい噛み合わせは、咀嚼機能や発音の改善につながります。
さらに、歯並びが整うことで見た目の印象が向上し自信を持てるようになるなど心理的な効果も期待できます。現代では、目立ちにくい矯正装置も多く、大人でも治療を始めやすい環境が整っています。
当院ではマウスピース矯正や裏側矯正など目立ちにくい装置や、表側矯正でもホワイトワイヤーやセラミックブラケットを用意してあります。
抜歯になるケースと
ならないケースの違い
歯列のスペースの問題や、前歯や唇の前突感など総合的に診断し抜歯の有無を決めます。抜歯が必要なケースは、歯列が狭く歯のデコボコが重度の場合や、顎の大きさと歯のサイズのバランスが著しく悪い場合です。口元の突出感が抜歯をすることでどれくらい下がるかシミュレーションをしたり、CTを撮影することで抜歯後も骨から歯の根が逸脱しないかを事前に確認します。
一方、抜歯が不要なケース(非抜歯治療)は、顎の成長が良好で歯列に十分なスペースがある場合です。拡大装置やマウスピース矯正などの新しい治療法を活用することで、歯を抜かずにスペースを確保できる場合も増えています。
抜歯の必要性は、歯並びの状態、噛み合わせ、顔のバランスなどを総合的に判断して決定されます。
大人の矯正の
メリット・デメリット

大人の矯正のメリット
歯並びを整えることで、見た目が改善し自信を持てるようになるなど心理的な効果が期待できます。また、歯並びや噛み合わせを正しくすることで虫歯や歯周病のリスクが軽減し、長期的な口腔の健康を保つことができます。
正しい噛み合わせにより咀嚼機能や発音が向上し、生活の質が向上するのも大きなメリットです。
大人の矯正のデメリット
大人は骨の成長が完了しているため歯の移動がゆっくりで治療期間が長くなる場合があります。矯正治療を開始するタイミングで歯周病や虫歯などの既存の問題がある場合、矯正治療と並行して対応する必要があり治療計画が複雑になることがあります。
また、矯正治療で歯を動かしている最中は、歯を支える骨(歯槽骨)が無くなったり新しい骨ができたりを繰り返します。歯周病のケアを普段から心がけ、矯正治療終了後に新しい骨ができやすくなる口腔内を目指しましょう。
利用する矯正装置の種類

表側矯正
(ノンフリクションブラケット)
当院ではノンフリクションブラケットという従来の矯正装置と異なりシャッターでワイヤーの上から押さえることで、ワイヤーとブラケットの間に摩擦がほとんど発生しないよう設計された矯正装置です。この特徴により歯の移動が効率的に行われ、治療期間が短縮されることがあります。
ワイヤーをブラケットに固定するためのリガチャー(結紮線)を極力使用しないことで摩擦が少なくなり矯正力が弱くても歯がスムーズに動くため、歯の移動の際に出る痛みが軽減され患者様の負担を減らせるのも大きなメリットです。
表側矯正でのデメリットとされる見た目に配慮したセラミックブラケットやホワイトワイヤーも用意しております。
表側矯正について裏側矯正(Brava)
Brava(ブラーバ)は、アメリカのBRIUS社が開発した新しい舌側矯正装置で、歯の裏側に装着することで目立たずに矯正治療を行えるのが特徴です。従来の舌側矯正とは異なり各歯に独立したカスタムアームを取り付け、AIによる精密な計画に基づいて歯を個別に動かす「インディペンデント・ムーバーズ・テクノロジー」を採用しています。この技術により歯の移動が効率的に行われ、治療期間の短縮が期待できます。
装置が歯の裏側にあるため外見上ほとんど見えず、矯正中であることが他人に気づかれにくいというメリットがあります。装置が舌に触れるため装着初期には発音のしづらさや違和感を感じることがあったり、歯の裏側の装置の周りを歯ブラシで磨く際には慣れが必要になります。
治療症例がまだ少なく適用できる症例に限りがある場合もありますが、総じてBravaは目立たない矯正治療を希望する方にとっては選択肢の1つになります。
裏側矯正についてマウスピース矯正
マウスピース矯正は透明なマウスピース型の矯正装置を使用するシステムで、以下の特徴があります。
- 目立たないデザイン透明な素材で作られているため装着中でも他人に気づかれにくく、審美性を重視する方に適しています。
- 取り外し可能食事や歯磨きの際に簡単に取り外せるため口腔内の衛生管理がしやすく、従来の固定式装置に比べて虫歯や歯周病のリスクが低減できます。
- 快適な装着感金属製のワイヤーやブラケットを使用しないため口腔内の違和感や装置による口内炎の発生が少なく、比較的快適に過ごせます。
- 治療計画の精密さ3Dスキャン技術を用いて患者一人ひとりの歯型を精密に取得し、コンピューター上で治療のシミュレーションを行います。これにより治療の進行状況を事前に確認でき、計画的な治療が可能です。
- 幅広い適応症例軽度から中程度の歯列不正に効果的でさまざまな症例に対応できます。ただし重度の不正咬合や複雑な症例には適さない場合もあるため、事前の診断が必要になります。治療期間は症例により異なりますが、一般的に12~18ヶ月程度とされています。
マウスピース矯正は見た目を気にせず矯正治療を行いたい方や、取り外し可能な装置で快適に治療を進めたい方に適した選択肢です。マウスピース矯正のみでの治療が困難な患者様には部分的にワイヤーを通したり、ゴムかけを追加したりと組み合わせながら治療をすることがあります。
歯科矯正用インプラントスクリュー
歯科矯正用アンカースクリューは矯正治療において歯の移動を精密に制御するための小型のチタン製スクリューです。直径は約1.3~2.0mm、長さは6~10mm程度で歯茎を通して顎の骨に直接埋め込まれます。骨に直接固定されるため従来の方法よりも強固な固定源になり、特定の歯を効率的に移動させることが可能です。
これにより治療期間の短縮が期待でき、装置も小型で目立たないため装着中は外見に影響を与えにくいという利点があります。従来の矯正方法では難しかった複雑な歯の移動や、抜歯を避けたいケースにも対応できる可能性があります。
一方で術後のケアとして植立部位の清潔を保つことが重要で、適切な口腔衛生管理が求められます。また、強い外力や不適切なケアによりスクリューが外れるリスクもあります。治療に必要な麻酔の量は少量のため、侵襲性は抜歯よりも少なく植立後も食事や運動の制限は特にありません。
MSE(Maxillary Skeletal Expander)
MSE(Maxillary Skeletal Expander)は上顎の骨を効果的に拡大するための矯正装置で、特に成人の患者様に使用します。上顎の正中部に4本のミニスクリューを埋入し骨に直接固定することで、従来の方法では難しかった上顎の拡大を可能にします。
主な特徴として、上顎を拡大することで歯を抜かずに歯列のスペースを確保し、非抜歯治療で美しい歯並びを実現できることがあります。
また、上顎の拡大により鼻腔も広がり鼻呼吸がしやすくなることも期待でき、鼻呼吸がしやすくなることで口呼吸や睡眠時無呼吸症候群の軽減ができることもメリットです。
さらに、MSEは短期間で効果を得られることが特徴です。患者さん自身が専用のレンチで装置を調整し、約1ヶ月ほどで上顎の拡大が完了します。
一方デメリットとして、装置の大きさによる不快感や、鼻が少し膨らんだように見えることなどが挙げられます。治療中に痛みや違和感を感じることもあるため多少の慣れが必要になります。
MSE(上顎骨格拡大装置)の仕組みと
特徴について
MSE(Maxillary Skeletal Expander)は、上顎に装着した拡大装置に直接アンカースクリュー(ネジ)を固定して骨格から拡大する装置です。
拡大ネジを回していくことで、正中口蓋縫合という上顎の骨の真ん中にある繋ぎ目を拡げ、上顎の側方拡大が達成できます。上顎を拡大することで、上顎と繋がっている鼻腔にもアプローチできるため、鼻の通りが良くなり、口呼吸や睡眠時無呼吸が改善するというメリットもあります。
従来の急速拡大装置(RPE)との違い
RPE(Rapid Palatal Expander)は、上顎の左右の奥歯(小臼歯が萌出していたら小臼歯も)に固定源を求め、ネジを回していくことで上顎を側方に拡大する装置です。主に小児の矯正治療で使用します。
MSEはRPEでは拡大が難しい成人の矯正治療、つまり上顎の骨が固く拡大が困難な患者様に使用します。RPEにアンカースクリューというネジを併用することで、拡大時の力に装置が負けて装置の破損や拡がらないリスクを解消できます。
なぜ成人でも上顎拡大が可能なのか
通常、思春期を過ぎると上顎の正中口蓋縫合は硬く癒合してしまい、RPEでは拡大が難しいとされています。
MSEは骨に直接作用する力学的アプローチにより、成人でも縫合部を分離し、骨格レベルでの拡大を可能にします。
MSE矯正が適している症状・年齢
適応症例 | •上顎の幅が狭い方(狭窄歯列弓) •交叉咬合(奥歯が反対に咬んでいる)がある方 •鼻づまりや口呼吸の改善が必要な方 •成人で従来の拡大装置では効果が期待できない方 |
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治療効果 | •歯列の幅が拡がり、歯並びのスペース確保(歯のデコボコ改善) • バッカルコリドー(笑った時の口角と歯の間にできる黒い影)が改善され、笑顔の見え方に変化 •上気道の容積が拡大し、呼吸がしやすくなる |
適応年齢 | 中・高校生~成人 |
適応症 | ・顎が狭いことによる叢生(歯のガタガタ) ・鼻呼吸がしづらい、いびき・無呼吸症状がある |
治療前後の変化(歯列・顔貌・呼吸機能) | •歯列:幅が拡がり、歯をキレイに並べられるスペースができます。 •顔貌:頬が自然に拡がり、バランスが取れた印象になります。 • 呼吸機能 呼吸機能:鼻腔が拡がり、空気の通りが改善します。 |
MSE矯正のメリット
- 成人でも骨格拡大が可能
- 非抜歯による矯正治療が可能になる場合もある
- 歯を大きく傾斜させず、無理なく歯列拡大が可能
- 歯列・顔貌・呼吸機能の改善が期待できる
- 外科手術に頼らずに済むケースがある
- 治療後の後戻りのしにくさなど、安定性が高い
デメリット・リスク
- 装置の装着に伴う違和感や痛み
- スクリュー部位の腫れ・炎症リスク
- 一時的な発音障害や、前歯部正中離開による前歯の隙間
- 個人差により拡大量が制限される場合がある
- 装置による拡大が達成できない場合、抜歯や外科的補助が必要となるケースもある
適応できないケース
- 上顎の狭窄が認められない方
- 高口蓋(上顎のくぼみが深い)で装置を装着できる幅が無い方
- 大きな口蓋隆起(上顎のくぼみに骨が盛り上がっている状態)
MSE矯正がおすすめな方
- 成人で上顎が狭く、確実に拡げたい方
- 歯並びがガタガタで抜歯以外の方法を検討したい方
- 鼻呼吸が苦しく、口呼吸や睡眠時無呼吸が気になる方
- 笑顔の見え方が気になる方
治療の流れ
初診相談→検査→診断の順に行い、診断日に治療計画や治療期間を説明いたします。治療計画を聞いて当院で治療を進めていく場合、装置を装着する前にPMTC(歯のクリーニング)、MFT(筋機能療法)を全ての患者様に行います。
その後の流れや治療期間は患者様毎に異なります。治療後は保定装置(リテーナー)を3.0年くらいの使用が必要になります。
矯正治療中に気をつけること

ブラッシング
虫歯や歯周病にならないよう日々の口腔ケアが必要になります。
矯正治療中に虫歯や歯周病が進行した場合は、装置を一旦外して治療をする場合があります。その場合、治療期間が延長する原因になります。
食べ物の種類
装置装着後は、粘着性の食べ物や固い食べ物は装置の破損や脱離の原因になります。食べ方や大きさを変えていただければ食べられるものもございます。
口腔習癖
舌突出癖(舌が前方に出てしまう癖)や、唇に力が入ってしまう癖、指しゃぶりなど歯の動きに影響を与える癖は、治療期間延長の原因になります。
また、矯正治療が終了して保定期間中に習癖が残っていると後戻りの原因になり、状況によっては再治療になることがあります。